2011年9月17日土曜日

イタリア語の2人称単数敬称について

最初なんにしようかなあ、、、と悩んで、結論が出る話ではないのですが、寝物語にでも
楽しんでいただければ、という話を一つ。

イタリア語の2人称単数の敬称は3人称単数「彼女」と同じ「Lei」で、活用も3人称に準じます。

何を唐突な、と思われるかもしれませんが、最近趣味で学んでいることで、お許しくださいね。
、、、そもそも人称代名詞において、相手を親しみを込めて呼ぶ場合(2人称親称)と、目上に対して呼ぶ場合(2人称敬称)で区別する事自体はよくあることです。

我々が用いる日本語においては、文語で存在した敬称(「貴様」他)が使われなくなり
(ないし親称化され)、目上に対しては2人称を省略するのが一般的になっている状況なので直観しがたい部分はありますね。それでも、

「ねえ彼女、ちょっと遊ばない?」
のように、2人称の親称としてあえて3人称を使う場合などイメージしていただければ、と思います。イタリア語では敬称を3人称でこなすわけですね、、、ところが、地域的にみると3人称ときまっているわけでもないようなのです。

「、、、親しくない大人に向かって言う『あなた』ですが、これはさきほど説明したようにleiというのがふつうです。ところが南部ではvoiを使うことがあるのです。voiは普段は
『あなたがた』ということですから、動詞は2人称複数形を使います。」
(郡史郎著『はじめてのイタリア語』1998年)

イタリア南部では敬称として2人称複数を使う、という指摘です。
ふむ、なんでかしらん?
漠然とした疑問をもっていたところ、Wikipediaで『イタリア語の文法』の項をみていて興味深い記載をみつけました。

「歴史的には二人称の敬称として voi が使われた。」
実際、14-15世紀イタリア中部の商人、フランチェスコ・ディ・マルコ・ダティーニの手紙では親称tuの使い分けの対象として意識されるのはvoiです(イリス・オリーゴ著篠田綾子訳『プラートの商人』1981年)。ダティーニのいたトスカーナはイタリア共通語の母体となった土地で、また現在のイタリア南部とは別々の国であった時期が長く、Wikipediaの指摘が確認できる好例といえましょう。

、、、するってえともともと敬称に2人称複数を使っていたのが、途中からイタリア北・中部が3人称を使うように変わったってことか!柳田國男の方言周圏論みたいに、田舎が取り残されたみたいなものか、、、『歴史比較言語学入門』(下宮忠雄著1999年)で以下のような記載を見つけました。

「、、、古語は辺境に残る(archaism is marginal area)、、、。都市に発生した新語や新表現は、波紋が広がるように四方に普及するが、川や山の障害にぶつかると、そこで止まり、人里離れた山村には伝わらない。このため、都市では消えてしまったものでも、辺境の方言には古い単語や方言が残っていることが多い。」(P123)
イタリアではマッテオ・バルトリの新言語学として提唱したことに含まれているようです。
(バルトリ氏のIntroduzione alla neolinguisticaは1925年。柳田『蝸牛考』が1930年ですから、発想がそれぞれ独自なのかどうかが気になるところですね)

さて、ではその敬称としての3人称がどこからどのように来たか、です。欧米では歴史言語学は古からのぶあつい伝統を誇っていますから、時間と読解力さえ要すれば、誰かが必ず答えとなる説を提唱しているのは間違いありません。ただ、そこまでは単なる歴史好きの門外漢、なかなか突き詰めきれないですね。
、、、そうはいっても、他の印欧語との比較からある程度の仮説は導きだせそうです。すなわち、ロマンス諸語一般で2人称複数を使っていたものが、時間とともに徐々に崩れていく過程、といったものでしょうか。、、、また次回にお会いしましょう。

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