2011年10月21日金曜日

漢方生薬考 ヨモギ属(7) 茵蔯蒿(2)

まず、ヨモギ属(6)の続きとして:
沖縄県薬剤師会のHPではA. campestris Linne. リュウキュウヨモギを茵蔯蒿にあてています。

<薬理・薬味・薬能>
 森立之本『神農』では「味苦平。治風湿寒熱邪気。熱結黄疸。久服輕身益氣耐老。」との記載があります。『名医別録』にも微寒・無毒であり、通身の発黄・小便不利・頭熱を治する旨記載され、黄疸改善・瘀熱通利・利水が古来から知られていた薬能ということになります。現代でも使われる茵蔯蒿湯は初出が『傷寒論』、茵蔯五苓散は『金匱要略』と、古くから他生薬と配合され用いられてきました。宋代の韓祇和・李思訓は黄疸を陽黄と陰黄に分け、陰黄に対し大黄と附子を配合した茵蔯附子湯を使用しました(王好古「湯液本草」『四庫醫學叢書・病機氣宜保命集外七種』1991年収載)。陽黄/陰黄の分離はその後傷寒陰証の研究と温補脾胃を強く説いた元代の王好古により整理され、やがて清代には張璐が茵蔯四逆湯を開発します(『張氏医通』)。現代中医でも足の太陽膀胱経と脾胃に作用するとされ、脾胃に湿熱が鬱積する陽黄では茵蔯蒿湯・茵蔯五苓散を用い、より寒が盛んな陰黄では茵蔯四逆湯を用いるように分けています(神戸中医学研究会1982『中医処方解説』注5)。他、唐代(外臺:麻黄五味湯)、宋代(聖恵:茵荊湯)、明代など各時代に茵蔯蒿を含んだ新規方剤は開発されますが、現代保険収載まで続いているものとなると数が少なくなります。

和漢でも黄疸への作用を最重視します(香川修庵1738『一本堂薬選』「諸黄疸を療ず。必ず用いるの薬なり。」多紀元堅1837『提要』「黄疸之聖薬」、浅田宗伯1863『古方薬議』「黄家之主薬」)。吉益東洞1771『薬徴』は茵蔯五苓散と茵蔯蒿湯を考徴して茵蔯蒿の主治を「発黄」とした後、さらに進んで他症状があった場合は茵蔯蒿は使うべきではないとも受けとれる記載があります(注6)。陰黄に対し茵蔯蒿に附子を合わせて処方する中医的処方は、後世派(宗伯『薬議』)・古方派(東洞『薬徴』)いずれも強くこれを批判しています。

茵蔯蒿の成分ですが、精油(カピリンなど)の他、クロモン類(カピラリシンなど)、フェニルプロパノイド類(カピラルテミシンなど)、クマリン類(エスクレチン・スコパロンなど)、フラボノイド(クリソエリオールなど)などを含みます。このうちカピラリシン、エスクレチンの含量は9月の開花期から盛花期がピークで、薬種の採取時期と重なるとのことです(2002年のネット情報www.geocities.jp/kokido/in.html)。

 
 以下、茵蔯蒿の基礎研究の進捗状況については別稿を期したいと存じます(現状では上記ネット情報が、2002年と古いですが最もまとまっているものと思います)。特に利胆作用を中心として、研究がかなり進んでいるといっていい状況でしょう。

注5
 茵蔯四逆湯の初出ですが、ネット情報で医塁元戎(1660年)との記載あり。1702年の張氏医通より早いのですが、原典にあたれていません。

注6
仲景氏之於茵蔯蒿、特用之於発黄無他病者而已。」(吉益1771『薬徴』巻之中)

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