10月20日-21日付各紙に記事あり。24日琉球大学の調査チームから、映像が公開されました。NHKは6-7時台のニュースで短時間取り上げましたが、ニュースウォッチ9ではその後の事故報道などあったためか流されませんでした。テレビ朝日は10時からの報道ステーションで一定の時間をさいていましたね。同日読売新聞朝刊の番組欄をみると既に「元寇の沈没船映像公開」という題字がありますので、本日の記者会見の内容は事前に告知されていたようですね。調査チームの映像以外に潜水シーンあり、一般的な元寇の説明から入って宇野隆夫氏の資料を参照しての船体の大きさの推定、民間への取材など行っていて、最後はキャスターの(現代への示唆のような?)コメントでしめる、という内容でした。今後特集報道とかあるんでしょうかね?内容的にはありそうですね。
鷹島海底遺跡の研究は昭和55年以来の長い歴史があります。
www.h3.dion.ne.jp/~uwarchae/takasimasitebun.htm
当初から科研費特定研究で行われていたようですが(他に港湾整備に伴う鷹島町教委の発掘あり)、琉球大学池田栄史の調査チームも平成16年度からの科研費研究「長崎県北松浦郡鷹島周辺海底に眠る元冦関連遺跡・遺物の把握と解明」の調査の中での成果のようですね。
kaken.nii.ac.jp/p/18102004
ARIUA(アジア水中考古学研究所)のブログ「海底遺跡ミュージアム構想」でも、10月21日付で取り上げられていますが、現時点での学問上の意義についてのコメントはこの文章につきるように思われます。
blog.canpan.info/ariua/
「今後の分析・検討が必要ですが、これを機会に、日本の水中考古学の環境がより良い方向に
向いてくれれば、と思います。その機会でもあるとも思います。」
研究に長く携わってこられた方の、まさに感懐なのでしょう。
さて、1mほど掘り進めた状況での発表は、どのタイミングで発表するかはかった上でのものだったのでしょう。画像を拝見するかぎり、搬出遺物と船体との随伴関係はかなり確定できるようですね。実測図など詳細の報告書が待たれるところですが、調査チームは元寇船でほぼ確定できると評価している、ということでしょうか。
船舶史は、特に東洋では利用できる遺物・遺構が限られるため、我々門外漢からみてとっつき難い分野ではないでしょうか。日本で一般によくしられた資料となると該当時期では福建省の泉州船(1974年発掘:『泉州湾宋代海船発掘与研究』海洋出版社 1987年)や韓国新安船(1977年発見:『新安海底引揚古代木船의模型復元』文化財研究所 発行年次不明)などわずかです。
ただ、近年中国では山東省蓬莱市での元代から明代の船舶複数出土や(1号船が1984年、2-4号船が2005年:『蓬莱古船』山東省考古歴史研究所 2006年)、広東陽江市東平港1987年出土の南宋船南海1号、広東省汕頭市南澳島沖2009年出土の明船南澳1号などが注目されるところですし、韓国では2011年に忠南泰安郡近興面馬島沖で出土した高麗船の馬島3号船は保存状態がよいようで、やはり今後の報告書が待たれるところです(南海1号は2011年9月に科学出版社から試掘報告が出たばかりなようですね)。今後相互比較が可能になってくると興味深いですね。
文献史学の側での元寇船の分析というと、下記著作が挙げられるでしょう。
・山形欣哉『歴史の海を走る』2004年
日本における中国船舶史の、まさしく基本文献です。第3章で蒙古襲来絵詞に描かれる元船の分析を行っています(1999年のNHK大河ドラマ『北条時宗』でも元寇船の復元考証をされています)。
・井上隆彦「元寇船の海事史的研究」『日本海事史の諸問題船舶編』1995年
1991年テキサスA & M大学提出の修士論文に加筆修正したもののようです。文献・絵画的分析以外に泉州船、新安船についての記載あり。以下の記載は20世紀までの研究の状況を端的にあらわしています。
「(前略)しかし、こと元軍の日本侵攻時に使われた艦船の研究になるとごく一部の断片的研究業績が散見される程度で殆ど顧みられていないのが実情ではなかろうか。中でも直接的文献史料の欠如もあってか造船技術史からみた業績はおおよそ皆無といってもよいのである。」
・太田弘毅『蒙古襲来-その軍事史的研究-』1997年
元寇についての軍事史的研究として発行年次までにおける基礎的研究に位置付けられます。弘安の役時の江南軍の船舶に新造艦が少なかったであろうこと、船舶を造った4州のうち3州まで内陸にあること、東路軍の船舶がより被害を受けなかったと思われることなど興味深い記述を認めます。発掘の進展で船舶の性格を考える際、議論の出発点となるであろう視点を多く含みます。
今後の研究の進展をこころから待ちわびる次第です。
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