2011年11月28日月曜日

漢方生薬考 ヨモギ属(12)

<薬理・薬味・薬能>

『名医別録』には「煎じて用いれば、吐血、下痢、下部のチク瘡、夫人の漏血を止め、陰気を利し、肌肉を生じ、風寒を辟け、子を儲ける」との記載を認めます。『日華子本草』では「帯下を治し、霍乱、転筋、痢後の寒熱を止める」とあり、下焦の虚寒に対する薬剤で,
止血も経を温める効果からきていると評価されます(難波1980)。
 上記のような漢方上の知見を受けてとおもわれますが、近世以降の民俗例でも灸治以外での使用を認めます。1847年大蔵永常の民間応急処方集である『山家薬方集』には、多数ある灸治例に混ざるように下記方途が出てきます。

痢病の治方「生姜壱匁よもぎ五分常のごとくせんじ用ひて妙也。」
のんどのはれたる「生艾をしぼりしるをのんでよし。」
 他、しらみに対して「艾弐匁醋(ス)にてせんじつめたる汁ををつけて妙也。」

 現代においても、埼玉県では「水あたり」に対し、「ヨモギやフキ(蕗)の葉の汁をしぼって水に入れて飲めば水あたりをしない」、また止血目的に「ヨモギの葉をもんで傷の部分につける」ということが行われたようです(「民俗調査報告書」『埼玉県史』)。

  このような使い方は、別記の通り漢方が主流でない地域の使用例とも類似しているようには思われます。それにも関わらず、基礎研究においてevidenceの集積は比較的進んでいないのではないでしょうか。
A. princeps PAMP.の場合精油0.02%を含み、その半分はシネオールです。基礎研究で
は体温降下作用を認めますが、作用量が致死量に近く積極的な解熱薬にはなりません。また止血効果も証明できないようです。ヒスタミンの毛細血管透過性の抑制、グラム陽性球菌、皮膚真菌に対する成長抑制作用などが報告されています(難波1980)。艾葉について近年の研究をPubMedで通観すると、抗腫瘍効果や糖尿病の抑制効果に着目した論考が多いようです。

 単剤で効果が顕著でないこともあってか、金匱要略収載の艾葉含有処方は多くなく、芎帰膠艾湯と柏葉湯のみで、うち柏葉湯は馬糞を使用するためか現代保険収載は前者のみになっています。君薬になっているものがないこともあって、吉益東洞は艾葉の効果を「得て知るべからず」としました(吉益1763『薬徴』大塚敬節2007年校注)。

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