2011年11月4日金曜日

漢方生薬考 ヨモギ属(9)

C、艾葉

 『説文』に記載のある「艾」ですが『神農』に記載を認めず、『名医別録』中品が初出である点で茵蔯蒿や青蒿と来歴の異なる側面があります。使用法も異なって、内服もありますが当初から灸法の主薬である点が大きな特徴です。治療についての明確な初出文献は管見の限り前漢初期BC2Cのものと思われる馬王堆から出土した『五十二病方』(小曽戸洋ら2007『馬王堆出土文献訳注叢書五十二病方』)。艾が3ヶ所、いずれも灸治で用いられています(うち、痔に対して使用しているのが2ヶ所)。『名医別録』中品でももちろん、「艾葉味苦微温無毒主灸百病」と、灸法についての記載で認めますし、晋代『博物志』の記載(「艾草を積み、三年の後に焼くときは、津液下に流れて鉛錫を成す。すでに試みしに、験あり」白川静『字統』の訓読)や『荊楚歳時記』の記載(「炙に用いるに験キキメあり」)など、例には事欠かない状況です(なお、医療としての「灸」字自体は前掲『五十二病方』に7ヶ所記載がある他、『荘子』、『史記』倉公伝に初出を認めます:白川『字統』)。

現在の中国産はA. argyi Levl. et Van. (現代中国語艾蒿:和名チョウセンヨモギ)やヨモギA. princeps Pamp.(魁蒿:牧野富太郎はA. vulgaris L. var. indica Maximとしましたが、同種とされます)、A. lavandulaefolia DC.(野艾蒿)などの全草または葉を乾燥したものを正品とします(前掲難波1980)。けして日本産ヨモギだけではなく、むしろ別種が主体であるのですが、A. argyi Levl. et Van.も学史的にはA. vulgaris L.北蒿の変種とみなされていた時期があり、近縁種を区別せずに使っていたというのが実態でしょう。

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